親の介護 家族で意見が分かれたら? 対立を乗り越えるコミュニケーションのヒント
親の介護、家族でどう支え合う? 意見対立を乗り越えるために
親御さんの介護が必要になったとき、ご家族で今後のことを話し合う機会が増えるかと存じます。その際、介護の方針や役割分担などをめぐって、家族間で意見が分かれてしまうことは決して珍しいことではありません。
これまで育ってきた環境や価値観、親御さんとの関係性、置かれている状況などが異なるため、意見の相違が生じるのはある意味自然なことです。しかし、意見の対立が深まると、話し合いが進まないだけでなく、家族間の関係に亀裂が入ってしまうこともあります。
介護は長く続くことも多く、家族が協力して支え合うことが何よりも大切になります。この記事では、親御さんの介護をめぐってご家族で意見が分かれてしまったときに、対立を乗り越え、建設的な話し合いを進めるためのコミュニケーションのヒントをご紹介いたします。
なぜ介護のことで意見が分かれやすいのでしょう?
ご家族の間で介護について意見が分かれる背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 情報の差: 親御さんの現在の状態や必要なケア、利用できる介護サービスなどについて、家族間で理解している情報量に差がある場合があります。
- 価値観や考え方の違い: 親御さんの「こうしてあげたい」という思いや、「どこまで介護に関わるべきか」という考え方は、ご兄弟姉妹それぞれで異なります。
- 負担への認識の違い: 介護に関わる時間的・精神的・経済的な負担を、どの程度感じているか、または想像しているかに個人差があります。
- 過去の経験: 親御さんとのこれまでの関係性や、過去の家族内の出来事が、現在の考え方に影響を与えていることもあります。
これらの要因が複合的に絡み合い、話し合いの中で意見の相違として現れてくることがあります。
意見対立を乗り越えるためのコミュニケーションのヒント
では、もしご家族の間で介護について意見が分かれてしまったら、どのように話し合いを進めていけば良いのでしょうか。具体的なヒントをいくつかご紹介します。
ヒント1:感情的にならず、まずは「聴く」ことから始める
意見が対立すると、つい自分の考えを主張したくなったり、相手の意見を否定したくなったりすることがあります。しかし、まずは一歩立ち止まり、なぜ相手がそう考えているのか、どのような気持ちでいるのかを丁寧に聴くことから始めてみましょう。
「あなたはそう考えているのですね」「〜という点が心配なのですね」のように、相手の言葉を繰り返したり、気持ちを推測しながら確認したりすることで、相手は「自分のことを理解しようとしてくれている」と感じやすくなります。
ヒント2:事実と感情を分けて伝える練習をする
自分の意見を伝える際には、「〇〇という事実に対して、私は△△という感情を抱いています」のように、客観的な事実と自分の主観的な感情や考えを区別して話すことを意識してみましょう。
例えば、「いつも私ばかり介護をしている!」と感情的に伝える代わりに、「今週、私が介護に費やした時間は〇時間ですが、他の皆さんはどうでしたか? 私としては、もう少し負担を分担できると助かるなと感じています」のように、具体的な事実(時間)と自分の気持ち(助かる)を分けて伝えます。
ヒント3:「〜べき」ではなく「私は〜と思う」と伝える
相手を批判したり、一方的に指示したりするような「〜すべき」「〜するのは間違っている」といった表現は、相手を構えさせてしまい、話し合いを難しくします。
代わりに、「私は〜という選択肢も良いのではないかと思います」「私は〜という点が少し心配です」のように、「私」を主語にした「I(アイ)メッセージ」を使うことで、自分の考えや気持ちを柔らかく伝えることができます。これは、相手の意見を否定するのではなく、あくまで自分の視点を提示する伝え方です。
ヒント4:具体的な情報を共有し、共通認識を持つ
介護に関する話し合いでは、親御さんの医療的な情報、必要なケアの内容、利用できる公的なサービスやその費用、今後の見通しなど、具体的な情報を共有することが非常に重要です。
これらの情報が共有されていないと、それぞれの想像や不確かな情報に基づいて話が進み、誤解や意見の食い違いが生じやすくなります。必要であれば、ケアマネージャーさんや病院のソーシャルワーカーさんなどに相談し、専門的な情報や客観的な意見を参考にすることも有効です。
ヒント5:完璧を目指さず、まずは「共通の目標」を見つける
全員が100%納得する完璧な解決策を見つけるのは難しいかもしれません。大切なのは、全員が少しずつ歩み寄り、「親御さんのために何が一番良いのか」という共通の目標を再確認することです。
「短期的な目標として、まずは来月いっぱいまで〇〇を試してみよう」「経済的な負担については、一度専門家に相談してみよう」など、スモールステップで具体的な行動計画を立てることから始めても良いでしょう。
ヒント6:外部の専門家や公的機関の力を借りる
家族だけで抱え込まず、ケアマネージャー、地域包括支援センター、民生委員などの専門家や公的機関に相談することも非常に有効です。第三者の視点や専門知識は、話し合いに行き詰まった際に、新しい解決策や妥協点を見つける助けとなります。また、家族間の調整役として間に入ってもらうことも可能です。
介護を乗り越えるプロセスが、家族の絆を深める機会に
親御さんの介護は、ご家族にとって大きな出来事です。意見が分かれたり、感情がぶつかり合ったりすることもあるかもしれません。しかし、このプロセスを乗り越えようと真摯に向き合うことは、ご家族がお互いの気持ちや考えをより深く理解し、新しい協力関係を築く貴重な機会にもなり得ます。
すぐに解決できなくても、少しずつ、できることから話し合いを重ねていくことが大切です。そして、その中でご自身の気持ちや体調も大切にしてください。ご自身の心身の健康があってこそ、大切な親御さんやご家族を支え続けることができるのですから。
この情報が、皆さまがご家族で力を合わせ、穏やかな気持ちで介護に向き合っていくための一助となれば幸いです。